会員紹介
COCO FARM&WINERY
1950年代、計算や読み書きが苦手な足利市立第三中学校の生徒たちがその担任教師とともに急斜面の山を切り拓いたことで生まれた、ココ・ファーム・ワイナリー。草を刈り、カラスを追い払い、葡萄を摘み、枝を拾い集め、ワインの仕込みやビン詰めに汗を流すのは、知的障がいを持つこころみ学園の園生たちです。そんなココ・ファーム・ワイナリーでは、栃木県産小麦を使用したフィットチーネを販売しています。ワインはもちろん、ワイナリーショップに並ぶ商品には、原料や作り手への想いやこだわりが込められています。
自然に寄り添ったワイン造りこそ「仕事」
カン、カン、カン、カン――平均斜度38度の葡萄畑からは、缶を打ち鳴らす音が遠くから聞こえました。「カラスを追い払うために、園生が山の上で缶を鳴らしているんです。草を刈る人、運び出す人など、約150名の園生がここで暮らしています」と話すのは、専務取締役の池上知恵子さん。作業エプロン姿で園内を忙しく動き回っています。
「私たちの葡萄畑では除草剤を使わず、極力農薬も使用していません。急斜面の畑には機械化もむずかしいため機械による流れ作業などもありません。減農薬で育てた葡萄を、自然の酵母で発酵させ、一本一本手をかけて造っています。利益や効率を優先させるのではなく、自然とともに無理せずワインを造り続けることが、私たちの仕事です」
知的障がいを持つ人たちが、誇りを持って取り組めるような仕事を作ろうと誕生した、ココ・ファーム・ワイナリー。四季を通じて自然に寄り添い、伝統的な手仕事でワインを造り出しています。
「食べることは、生きること」だから国産にこだわる
ワイナリーに併設されるカフェやショップでは、ワインや葡萄ジュースなどのほかに、地産地消にこだわった商品が取り揃えられています。そのひとつとして並ぶのが、栃木県産小麦を使用したフィットチーネ。ショップやホームページで販売してます。
「ワインの良し悪しは葡萄で決まります。ワインに限らず、特に食べものは素材が大切。だから国産、なかでも栃木県産の食材にはこだわっています。食べることは、生きること。安心、安全なものにこだわるというのは、自然なことなのではないでしょうか」
とはいえ、食の世界にも低予算低価格の波が押し寄せています。国産小麦については、原価が高いからと敬遠するところは少なくありません。
「バランスが大切ですよね。すべてにおいて『安心安全で、美味しくて、育てる人も、食べる人も、納得できる』ように、色々な要素がバランスよく揃い、それを消費者がバランスよく選べるのが理想でしょう。私自身、『バランスのいいワインですね』と言われると、ワインの造り手としてとても嬉しいと感じます。本来は、糖や酸や、渋さや果実味などワインの味わいのことなのですが」
「続けること」が伝えられることがある
ココ・ファーム・ワイナリーがワインづくりをはじめて30余年。ある年は、葡萄の芽が出始めた頃にヒョウが降り、葡萄の収穫量が半減してしまったこともあるそうです。
「人が自然をコントロールすることはできない。園生たちはそれを本能的に理解しており、くよくよすることなく『また明日から頑張んべ』と笑顔を見せてくれます。ヨーロッパの老舗ワイナリーの歴史に比べれば、ワイン造りではまだまだひよっこですが、それでも続けることが大切なのだと思っています」
葡萄畑が開墾されてから、四半世紀以上。園生の高齢化も目立ち始めましたが、ここが彼らの仕事場、生活の場であることに、これからも変わりはないのだと、池上さんは言います。
「お客さまにワインを楽しんでいただいて、国内の葡萄生産者や農産物生産者の方たちの力を借りて、小さくても永く続けられるよう願っています。麦わらぼうしの会の活動も、続けることで国産小麦のよさをより多くの人に伝えられるようになるのではないでしょうか」